NOTES — ノートの整理術
ノートアプリが続かないときに見直すこと — 書く前の整理を減らす
書く前の分類で迷う、書いても後から見つからない。続かない場面を切り分け、入口と検索を小さく見直す手順と具体例を紹介します。
この記事の目次
ホーム画面の2ページ目に、ノートアプリのアイコンが3つ並んでいる。どれも入れた週にはフォルダ構成を設計し、タグの命名規則を決め、テンプレートまで用意して気持ちよく書いたのに、いまは開いた日すら思い出せない。この光景に心当たりのある人は、たいてい「自分は飽きっぽいから」「意志が弱いから」と自分を責めて話を終わらせます。
しかしアプリを3つ替えて3回とも同じ経路で挫折したのなら、変わっていないのはアプリではなく順番のほうです。3回とも、書く前に整理のルールを決めていた。この順番が負担になっていた可能性を、見直しの候補にできます。仕事術の GTD が5つのステップの最初に置いているのは、気になっていることを何でも1か所に集める Capture(集める)であり、それが何かを見極める Clarify や置き場所を決める Organize はその後に来ます(Getting Things Done「What is GTD」)。集めてから整理する、という順番は GTD に限らず、書き始めの判断を減らすための運用案として使えます。先に分類することが負担になる場面、順番を反転させて続けるための2週間の手順、そしてつまずきやすい場面への対処を順に見ていきます。
分類で止まる経過を具体例で見る
以下は、分類に迷って書かなくなる経過を描いた架空例です。期間や所要時間は実測ではなく、説明のための設定です。自分の使い方で同じ中断があるかを考えながら読んでください。
初日。新しいアプリの機能を眺めながら、理想のフォルダ構成を考えます。「仕事」「プライベート」「アイデア」「日記」。仕事の下には案件ごとのサブフォルダ。タグは「重要」「あとで読む」「参考」あたりを用意する。この設計作業自体はけっこう楽しく、それだけで1〜2時間が過ぎます。
最初の1週間。設計した構成に従って書いていきます。ただ、ときどき手が止まります。「A社の打ち合わせで浮かんだ新機能のアイデア」は「A社」フォルダなのか「アイデア」フォルダなのか。数秒考えて、どちらかに入れます。この数秒が、あとで効いてきます。
2週目。分類に迷うメモが増えてきます。どこにも収まらないメモは、とりあえず未分類のまま置くか、書くこと自体を後回しにするようになります。「あとでちゃんと整理してから書こう」と思ったメモは、たいてい書かれません。
1か月後。フォルダ構成は初日の現実を映した地図のまま、実際の生活や仕事は先へ進んでいます。新しい案件、想定していなかった種類のメモ、使われないまま残る空のフォルダ。地図と現実のずれは、開くたびに小さな罪悪感を生みます。「整理しなきゃ」と思いながらアプリを閉じる回数が増え、やがて開かなくなります。
この経過のどこにも「意志の弱さ」は登場しません。登場するのは、書く前に発生する小さな判断と、時間とともに現実からずれていく分類ルールだけです。原因が構造にあるなら、対策も構造で打てます。順に見ていきます。
原因1: 書く前の判断コストが、書く気力を削る
メモは「思いついた瞬間」が寿命のピーク
メモしたいことが頭に浮かぶ瞬間を思い出してください。歩いているとき、会議中、風呂上がり、寝る前。思いつきの鮮度はその瞬間が最高で、あとは下がる一方です。記憶が時間とともに失われていく様子はエビングハウスの忘却曲線として知られていますが、学習から20分後、1時間後、9時間後、1日後、2日後、31日後という間隔で保持を測ったこの実験は、2015年の追試でも元のデータとよく似た曲線が再現されています(Murre & Dros, Replication and Analysis of Ebbinghaus' Forgetting Curve, PLOS ONE, 2015)。実験の対象は無意味な音節の暗記ですが、頭の中に置いただけの思いつきが放っておくと薄れていく実感と矛盾しません。しかも思いつきの場合は、次の話題に移った瞬間に輪郭がぼやけ、「なにか思いついた気がする」だけが残ることも珍しくありません。
だからメモの道具に求められる第一条件は、思いついてから書き終わるまでの障害物が少ないことです。ところが「整理してから書く」設計のアプリは、この最短経路の途中に判断を挟みます。どのフォルダに入れるか。タイトルを何にするか。タグは付けるか。ひとつひとつは数秒の判断でも、鮮度が命のメモにとっては十分に致命的です。分類に時間を使って書きたい内容を残せなかったことがあるなら、入口を簡潔にする余地があります。
小さな判断も、毎回発生すれば習慣を壊す
人は、行動の直前に判断を要求されると、その行動自体を避けるようになります。ジムに行く前に毎回ウェアを探す必要があるだけで足が遠のくのと同じで、書く前に「これはどこに入れるべきか」という問いが毎回挟まると、脳はその小さな負荷を学習して「あとでいいや」を選ぶようになります。そして「あとで」は来ません。
重要なのは、この判断コストが書きたい内容と無関係だという点です。書きたいのは思いつきの中身であって、その保管場所ではありません。本題の前に毎回事務手続きを要求する窓口に、人が寄りつかなくなるのは当然です。1日に5回メモする人なら、判断も1日5回。この積み重ねが、1か月後の「なんとなく開かなくなった」の正体です。
「きれいに書かなければ」という無言の圧力
フォルダとタグを整えたノートには、もうひとつ副作用があります。整った器には整った中身を入れたくなる、という圧力です。せっかく設計した「アイデア」フォルダに、「あれ、なんかいける気がする、明日考える」のような断片を放り込むのは気が引けます。結果、書く前に頭の中で文章を整えるようになり、整えるのが面倒な思いつきは書かれなくなります。
しかしメモの価値は文章の完成度ではなく、捕まえたかどうかで決まります。断片のまま捕まえた10個のメモは、書かれなかった10個の完璧な文章に勝ちます。この優先順位を取り違えたまま「ちゃんと書こう」とし続けると、書く行為そのものがどんどん重くなっていきます。
原因2: 分類ルールと用途がずれることがある
フォルダ構成は「その日の現実」のスナップショット
初日に設計したフォルダ構成は、その時点での仕事・関心・生活を反映した地図です。問題は、現実のほうが動き続けることです。案件は増減し、興味は移り、生活のフェーズは変わります。3か月前に作った「読書メモ」フォルダは、読書の習慣が途切れればただの空き部屋になり、想定していなかった種類のメモは行き場を失って未分類にたまります。
チームの文書管理なら、ルールのメンテナンス自体を業務として割り当てられます。しかし個人のノートで「フォルダ構成の定期見直し」を続けられる人はまれです。つまり個人ノートの分類ルールは、メンテナンスされない前提で考えるべきで、メンテナンスされないルールは必ず現実からずれていきます。用途が変わったときに、分類を維持する手間も含めて見直します。
ずれた地図は「従うストレス」と「直すストレス」の二択を迫る
現実とずれた分類ルールの下で書き続けると、選択肢は2つしかありません。ずれたルールに無理やり従い続けるか、手を止めて再編成するかです。前者は書くたびに小さな違和感を積み、後者は数時間の整理作業を要求します。どちらもストレスで、どちらを選んでも「アプリを開くのが億劫」という同じ出口に着きます。
フォルダ・タグ・検索という3つの整理方式それぞれの得意と不得意はフォルダ・タグ・検索の比較記事で詳しく書きましたが、結論だけ言えば、事前の分類(フォルダとタグ)は維持コストが継続的に発生する方式であり、個人の雑多なメモにはそのコストが見合わないことがほとんどです。
続いている人は「先に書いて、整理はあと」に反転させている
一方で、何年もノートが続いている人がいます。続いている人の使い方を観察すると、共通点は驚くほど単純です。書く場所を考えていない。とにかく1か所に書く。整理は、必要になったときに検索や絞り込みで済ませる。つまり「整理してから書く」を「書いてから、必要なら整理する」に反転させています。
この反転が効く理由は、コストの発生タイミングにあります。事前整理方式では、分類コストは書くたびに毎回発生します。事後整理方式では、コストは見返すときにだけ発生します。そして実際にメモを見返す回数は、書く回数よりはるかに少ないのです。ほとんどのメモは、書いた時点で役目の大半(頭の外に出すこと)を終えていて、二度と読まれません。読まれないメモのために毎回分類コストを払うのは、宛先のない郵便物まで全部仕分けするようなものです。
ここまでの話を、2つの方式の違いとして並べると次のようになります。
| 観点 | 整理してから書く(事前整理) | 書いてから整理する(事後整理) |
|---|---|---|
| 分類の判断が発生する時点 | 書くたびに毎回 | 見返すときだけ |
| 判断の回数 | 書いた回数と同じ | 検索や見直しを行う回数による |
| 書く前の障害物 | 置き場所・タイトル・タグの決定 | 入口の判断を減らせる。保存先の制約は確認する |
| ルールの劣化 | フォルダ構成が現実からずれていく | 本文の語を使う。表記や検索範囲の確認は必要 |
| 探し方 | フォルダ階層を辿る | 検索窓に打つ |
| 向いている場面 | 複数人で共有する文書管理 | 個人の雑多なメモ |
書き出すこと自体に価値がある、という点は強調しておきます。頭の中の心配ごとや考えごとは、言葉にして外に出すだけで整理が進みます。ストレスや感情的な出来事について書くことが身体面・心理面の健康の改善につながるという研究は、臨床・非臨床の双方の集団で積み重ねられています(Baikie & Wilhelm, Emotional and physical health benefits of expressive writing, Advances in Psychiatric Treatment, 2005)。感情的な出来事を扱う研究の結果を、日々の雑多なメモへそのまま一般化することはできません。ここで提案する運用は、書き始めやすさと後の利用を確かめるためのものです。書く行為の価値は保存や分類ではなく、書くことそのものにある。だからこそ、書く前の障害物を全部撤去する価値があるのです。

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- 書く前に迷う選択肢を減らします。
- 決めた入口へ、まず短くメモを残します。
- 後で取り出せるかを試し、必要な整理だけ足します。
反転運用の1日はこうなる
具体的なイメージのために、架空の一日を描きます。秒数は実測値ではなく、作業の流れを説明するための例です。
朝の通勤中、昨日の会議の宿題について「先にB案の試算だけ出せば議論が前に進む」と思いつきます。スマホを出してアプリを開き、「B案の試算を先に。7月の単価表ベース。前提は田中さんに確認」とだけ書いてポケットに戻す。ここまで20秒。フォルダのことは一度も考えていません。
昼、打ち合わせの雑談で相手が漏らした「来期は予算が半分になるかもしれない」を、その場で「◯◯部長: 来期予算半減の可能性あり、正式決定は9月とのこと」と書き留めます。直前まで書いていた会議メモと話題が違っても、同じ場所に続けて書くだけです。どこに書くかの判断は発生しません。
夜、先週メモした本のタイトルを思い出したくなります。フォルダを辿る代わりに、覚えている著者名の断片で検索して10秒で見つける。著者名を忘れていても、「書店で見かけた日は雨だった」程度の記憶から日付をあたりにして辿り着けます。
1日を通して、「どこに書くか」と「どこにしまったか」を考える時間がゼロになっていることが分かると思います。判断が消えると、メモの回数そのものが増えます。回数が増えると頭の外に出せる量が増え、頭の中は軽くなります。この例では、分類を後に回したときの作業の流れを示しています。書く量や負担の変化は、自分の利用場面で確認してください。
具体的な始め方 — 2週間の実験
理屈はここまでにして、実際の手順です。今日から2週間の実験として試してください。
- 受け皿を1つ決める。新しいアプリを入れる必要はなく、いま入っているノートアプリに「受け皿」という名前のノートを1枚作るだけでかまいません
- 2週間、思いついたことはすべてその1枚に書く。仕事のメモも買い物リストも愚痴もアイデアも、分類せず上から順に追記する
- 書くときのルールは2つだけ守る。固有名詞を省略せずそのまま書くこと(「例の件」ではなく「A社の見積もりの件」)と、話題の変わり目に日付や場所をひとこと添えること
- 過去のノートの移行や再整理はしない。古いフォルダはそのまま放置する
- 見返したいことができたら、フォルダをたどらず検索で探す
- 2週間後、「検索しても見つからなくて困った」回数を数える
ポイントは6番です。事前整理をやめることへの不安の正体は「あとで見つからなくなるのではないか」という予測ですが、この予測は実験で検証できます。2週間書き殴って、実際に困った回数を数えてください。困った場面と困らなかった場面を分けて記録すると、自分に必要な整理の範囲を判断できます。そして本当に困った場面があったなら、その場面に対してだけ最小限の対策を導入すればよい。予測に対してではなく実測に対して整理を導入する、この順番が過剰な仕組みづくりを防ぎます。
3番のルールだけは書く時点の工夫ですが、これは分類ではなく、未来の検索に対する布石です。判断は要りません。頭に浮かんだ固有名詞をそのまま指に乗せるだけなので、書く速度も落ちません。「打ち合わせで例の件が進んだ」と書けば未来の自分は途方に暮れますが、「8/27 A社定例で値引きの件が前進、9月に再見積もり」と書けば、「A社」でも「見積もり」でも「8月」でも辿り着けます。検索で見つかる書き方の詳細はあとから見つかるメモの書き方にまとめています。
5番も実は練習が要ります。長年フォルダ方式を使ってきた人は、探しものの際に無意識にフォルダ階層を辿ろうとします。この癖を「まず検索窓に打つ」に置き換えるのが2週間の隠れた課題です。検索が最初の選択肢になると、ノートだけでなくファイルやメールの探し方も変わります。
よくある失敗と対処
この反転運用にも、つまずきどころがあります。以下は想定されるつまずきと、対処を考えるための例です。
失敗1: 受け皿が2つ以上ある
「仕事用は別にしたい」と受け皿を2つ作ると、書く前に「これはどっちだっけ」という判断が復活します。受け皿の価値は、数が1であることそのものにあります。会社の情報管理規程などでやむを得ない場合を除き、受け皿は1つに保ってください。LINEの自分宛てトーク、付箋、メールの下書きなどに散らばったメモを1か所へ集約する考え方と手順はインボックス運用の記事で詳しく説明しています。
失敗2: 移行プロジェクトから始めてしまう
新しい運用を始める前に、過去のノートを全部整理・移行しようとする人がいます。移行の負担で、新しい運用を試す時点が遠のく場合があります。移行作業は数時間から数日かかるうえ、それが終わるまで新しい運用が始められないからです。過去のノートは過去の場所に置いたままにして、必要になったら古いアプリを開いて検索すれば済みます。移行は、実際に何度も参照したものだけを、参照したそのときに移せば十分です。
失敗3: 書き殴りの汚さに耐えられなくなる
数週間分の書き殴りがたまると、雑然としたノートを見て「一度ちゃんと整理したい」という欲求が湧いてきます。ここで大規模な再編成を始めると、元の挫折パターンに逆戻りです。対処は2つあります。ひとつは、見た目と、検索に必要な語が残っているかを分けて確認することです。乱雑な書き方でも検索できる場合はありますが、語の省略や表記の違いは見つけにくさにつながります。たとえば iPhone の「メモ」は、入力したテキストだけでなく手書きの文字や画像に写った対象、スキャンした書類の文字まで含めて、すべてのメモを対象に検索します(Apple サポート「iPhoneでメモを検索する」)。フォルダ分けが崩れていようと、1枚のノートが長大になっていようと、検索の範囲は変わりません。もうひとつは、区切りを入れることです。話題の変わり目に区切り線を1本入れるだけで視覚的なストレスは減ります。分類と違って、区切りは判断を要求しないので書く速度を落としません。
失敗4: 「少しだけ」のつもりのタグが増殖する
「大分類くらいは付けたい」とタグを3個で始めたのに、気づけば30個になっている。タグは追加が一瞬でできるぶん、増殖を止める仕組みがありません。そして「打合せ」「打ち合わせ」「MTG」のような表記ゆれが混ざった時点で、タグは検索より不便な何かに変わります。使うなら上限を先に決めて、超えそうになったら足すのではなく捨てる。あるいは最初からタグなしで運用して、本当に困るかどうかを実測で確かめるほうが早いです。
失敗5: アプリ探しに戻ってしまう
運用がうまくいかないと感じたとき、原因を道具に求めて新しいアプリを探し始めるのもよくある失敗です。アプリを替えれば最初の数日は新鮮さで書けるので、解決した気になります。しかし順番が反転していなければ、同じ挫折が数週間遅れで再現するだけです。乗り換えを検討するのは、反転運用を2週間試したあとで、いまの道具への具体的な不満(起動が遅い、検索が弱いなど)を特定できてからにしてください。不満が具体的になっていれば、次の道具選びは失敗しにくくなります。
5つの失敗に共通しているのは、「書く前の判断」か「事前の構造づくり」のどちらかがこっそり復活していることです。兆候と対処を一覧にしておきます。
| 失敗 | 復活しているもの | 兆候 | 対処 |
|---|---|---|---|
| 受け皿が2つ以上ある | 書く前の判断 | 「これはどっちだっけ」が毎回発生する | 規程上やむを得ない場合を除き1つに戻す |
| 移行から始める | 事前の構造づくり | 過去ノートの整理が終わるまで新運用が始まらない | 過去は放置し、何度も参照したものだけその場で移す |
| 汚さに耐えられない | 事前の構造づくり | 大規模な再編成を始めたくなる | 区切り線を入れる。見た目と検索語・検索範囲を分けて確認する |
| タグが増殖する | 書く前の判断 | 表記ゆれが混ざり検索より不便になる | 上限を先に決めるか、タグなしで実測する |
| アプリ探しに戻る | 事前の構造づくり | 新しいアプリの新鮮さで解決した気になる | 2週間試してから具体的な不満を特定して乗り換える |
道具は「思いついてから本文まで何秒か」で選ぶ
運用を反転させると、道具に求める条件も変わります。フォルダ機能の充実やテンプレートの豊富さは重要ではなくなり、代わりに次の3つが効いてきます。
- 起動から本文入力までが最短であること。起動→ノート一覧→新規作成→タイトル入力→本文と5ステップかかるアプリは、書き殴りの受け皿としては失格です
- 分類を強制しないこと。保存のたびにフォルダ選択を求めるアプリは、それだけで判断コストを毎回発生させます
- 全文検索が信頼できること。事後整理方式では検索が生命線なので、ここだけは妥協できません
手元のアプリがこの条件を満たすかは、ストップウォッチで測れば分かります。スマホがポケットにある状態から、画面に最初の1文字が入るまでの秒数を測ってみてください。この秒数に一律の合格基準はありません。どの操作で止まったかを調べる手がかりにします。アプリ自体を替えなくても、配置の工夫だけで数秒は縮まります。iPhone ならウィジェットをホーム画面やロック画面に置けるうえ、アプリアイコンをそのままウィジェットに変換することもできます(Apple サポート「iPhoneでウィジェットを追加する/編集する/削除する」)。Android もホーム画面の空きスペースを長押しすれば、アプリのウィジェットやショートカットを好きな位置に置けます(Android ヘルプ「アプリ、ショートカット、ウィジェットをホーム画面に追加する」)。使っているノートアプリがウィジェットを用意していれば、受け皿ノートを1タップで開く動線が作れます。道具選びの前に、まず今の道具の動線を最短にしてみてください。
私がつくっている TheNote は、まさにこの3条件のために設計したアプリです。起動すると即、本文にカーソルがある。フォルダもタグもタイトルもなく、区切りたければ切り取り線を1本入れるだけ。「整理してから書く」を思想として最初から捨てています。
ただし、専用アプリでなければ反転運用ができないわけではありません。前述のとおり、いま使っているアプリに受け皿ノートを1枚作れば今日から始められます。大事なのは道具ではなく順番の反転です。道具は、反転した運用を最も摩擦なく回すための選択肢として、あとから検討すれば十分です。
2週間の実験のあと — 運用の続け方
2週間の実験で手応えがあったら、そのまま同じ運用を続けるだけですが、長く続けるうえで役に立つ習慣が2つあります。
ひとつは、週に1回、受け皿をざっと上から眺めることです。目的は整理ではなく回収です。書きっぱなしのメモの中には、動かすべきものが少数混ざっています。予定はカレンダーへ、やるべきことはタスクリストへ、何度も参照しそうな情報は独立のページへ。動かす必要のないもの(これが大半です)は、そのまま放置します。GTD でも、集めたものを定期的に見直して制御と集中を取り戻す Reflect(見直す)が、集める・整理するとは別の独立したステップとして置かれています(Getting Things Done「What is GTD」)。書く時点で整理しない代わりに、見直しの時間を小さく確保するわけです。かける時間は5〜10分で十分で、受け皿をゼロにしようと頑張らないことが続けるコツです。
もうひとつは、「昇格」を覚えることです。書き殴りの中から繰り返し参照するメモが出てきたら、そのメモだけを独立したページに書き直します。手順のメモ、よく使う番号や住所、繰り返し見る一覧など。昇格の判断基準は「実際に2回以上探したかどうか」です。将来参照するかもしれない、では昇格させません。実績ベースで昇格させると、独立ページを実際に使うものへ絞れます。ただし、内容や用途が変われば更新は必要です。
この2つの習慣は、どちらも「事後に、実績に基づいて」手を動かしている点が共通しています。事前の予測で構造を作らないという原則は、運用が安定してからも変わりません。
受け皿1枚の先にある2つの発展
受け皿1枚の方式に慣れてくると、1枚のノートが長大になりすぎるという次の課題が見えてきます。その自然な発展形が、受け皿を1日1ページに区切るデイリーノート方式です。「今日のページに全部書く」というルールなら、分類の判断は発生しないまま、日付という検索キーが全メモに自動で付きます。話題よりも記録した時期を思い出せる場面では、日付を手がかりに探せます。運用の詳細はデイリーノートの記事にまとめました。
もうひとつの発展は、書き殴りを思考の道具として使うことです。書くことは記録であると同時に、考えることそのものでもあります。頭の中だけで扱える論点の数は案外少なく、書きながら考えると、漏れや矛盾が目に見えるようになります。受け皿の習慣が身についた人は、込み入った悩みや判断をそのまま受け皿に書き出して考える使い方に進むと、ノートの役割が記録から思考の場へ広がります。この観点は書くことは考えることの記事で掘り下げています。
判断に迷いやすい3つの場面
仕事のメモと私用のメモを混ぜて大丈夫か
検索で辿る運用なら、混ざっていること自体は問題になりません。「A社」で検索すれば仕事のメモだけが出てきます。問題になるのは、会社の規程で業務情報の保存場所が指定されている場合と、画面を人に見せる機会が多い場合です。前者に該当するなら、規程に従って業務用の受け皿を別に立て、それ以外のすべてを残り1つに集約してください。受け皿が2つになるのは妥協ですが、「業務かどうか」は他の分類軸と違って判断に迷わないので、実害は小さく済みます。
本当に検索だけで見つかるのか
見つかるかどうかは、書く時点で検索に引っかかる言葉が入っているかで決まります。固有名詞をそのまま書く、日付や場所を添える、という2つのルールを守っていれば大半は見つかります。逆に「例の件、よさそう」のようなメモは、どんな整理方式でも救えません。フォルダに正しく分類されていても、開いて読むまで中身が分からないからです。検索で見つかる書き方は、フォルダ設計より習得が簡単で、一度身につけば道具を乗り換えても持ち運べる技術です。
紙のノートでも同じ運用はできるか
「1冊に時系列で書き殴る」という運用は紙でも成立します。大学ノート1冊にすべてを書く方式で長年続けている人は、デジタル以前から存在します。紙の弱点は検索ができないことで、日付を必ず書く・ページの端に見出し語を書くといった工夫である程度補えます。紙は手元ですぐ書けること、デジタルは本文検索や大量の記録を持ち運べることが利点になります。書く速さや考えやすさは、入力方法と用途に応じて確かめてください。両者の使い分けは紙とデジタルの比較記事で詳しく検討しています。
次の一歩
今日やることは3つで、合計しても数分で終わります。
- いま使っているノートアプリを開いて、「受け皿」という名前のノートを1枚作る。新しいアプリのインストールも、フォルダの設計も、過去ノートの整理も要らない
- そのアプリのアイコンかウィジェットをホーム画面の1ページ目に置き、ポケットから出して最初の1文字を打つまでの秒数を1回だけ測る
- 次にメモしたいことが浮かんだら、どこに書くかを考えずにその1枚に書く
これを2週間続けて、検索で困った回数を数えてください。整理を導入するかどうかを考えるのは、その数字を見てからで遅くありません。
続かない原因を一つ選んで試す例
以下は、会議中のメモを残したい人が運用を見直す架空例です。アプリを開いた後、案件フォルダを選ぶところで迷って書きそびれるとします。この場合は、全機能を替える前に「会議中は決めた受け皿へ書く」という変更を試せます。一方、すでに書けていて後から見つからない人なら、同じ変更より検索語や見直し方を調べるほうが目的に合います。
試す前に、何が改善すればよいかを一文にします。「電話や会議を止めずに必要事項を残せる」「後から案件名でそのメモへ戻れる」などです。試験期間は自分が実際の作業を経験できる長さで決めます。本文の二週間は始め方の例であり、それより短いと効果がない、長ければ習慣になるという基準ではありません。
使ってみた結果から残すルールを決める
| 観察したこと | 次に試す調整 |
|---|---|
| 分類しなくても書けて探せる | 今の入口を続け、分類を増やさない |
| 書けるが案件を見分けにくい | 対象名や短い見出しを添える |
| 期限のある作業を見落とす | タスクへ取り出す見直しを設ける |
| 仕事と私用の公開範囲が違う | 保存先の境界を保って入口を簡潔にする |
| 必要な機能自体が使えない | 具体的な条件を基に道具を見直す |
「一つの受け皿」が合わない結果も、運用を知る材料になります。共有範囲の異なる情報や、専用の管理が必要な予定まで同じ場所へ押し込む必要はありません。まず書く場所を決めやすくし、その後に扱う責任や期限に合わせて移します。
記録するのは書いた日数だけでなく、どの場面で困ったかです。毎日続かなかったことを直ちに失敗とせず、必要な場面で役立ったかを確かめます。残すルールを実際の困りごとへ対応させると、使わない分類を増やすより、次の改善を具体的に選べます。
参考リンク
- Getting Things Done「What is GTD」 — 5ステップの順序が Capture から始まり、Clarify・Organize・Reflect が後に続くこと
- Murre & Dros, Replication and Analysis of Ebbinghaus' Forgetting Curve, PLOS ONE, 2015 — 20分後から31日後までの間隔で忘却曲線を追試し、元データと似た曲線が再現されたこと
- Baikie & Wilhelm, Emotional and physical health benefits of expressive writing, Advances in Psychiatric Treatment, 2005 — 感情的な出来事を書くことが心身の健康改善につながるという研究の概観
- Apple サポート「iPhoneでメモを検索する」 — 入力テキスト・手書き・画像内の対象・スキャン書類まで全メモを横断して検索できること
- Apple サポート「iPhoneでウィジェットを追加する/編集する/削除する」 — ホーム画面・ロック画面へのウィジェット追加と、アプリアイコンをウィジェットに変換する操作
- Android ヘルプ「アプリ、ショートカット、ウィジェットをホーム画面に追加する」 — ホーム画面の空きスペースを長押ししてウィジェットやショートカットを置く手順